人工知能、IoT、ビッグデータなどの近年話題になっている要素技術。 これらはたまたま同じタイミングで出現したわけではありません。 相互に深く絡み合い、切っても切り離せない関係にあります。

それらを組み合わせ、イノベーションを起こそうとする国内外の取り組みについてまとめました。 本記事では以下のようなトピックを扱います。

予算概算からみる国内の人工知能活用指針

人工知能関連の予算内訳の変化

人工知能活用を目指す取り組みが国内で活発化しています。 文科省・経産省・総務省が先日発表した今年度の予算の概算要求では人工知能分野に関する記述が多く見られました。 具体的には以下のようなものが追加されています。

文科省の産業技術関係予算概算要求(平成29年度)

名称 円(前年)
新たなイノベーションの鍵となる人工知能・ビッグデータ等に関する研究基盤の強化 157億(102)
データプラットフォーム拠点形成事業 57億(0)
人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト 96億(54)
データ関連人材育成プログラム 3億(0)

経産省の第二次補正予算案(平成28年度)

⼈⼯知能に関するグローバル研究拠点整備事業 195億

経産省の産業技術関係予算概算要求(平成29年度)

次世代人工知能・ロボット中核技術開発 39.6億(30.6)

総務省の所管予算概算要求(平成29年度)

3省(総務省、文科省、経産省)連携による次世代人工知能技術の研究開発 12億(0)
「IoT/BD/AI情報通信プラットフォーム」の構築と社会実装の推進 12億(0)

予算が増大しただけでなく新たな提案が追加され、日本でも人工知能の活用に関する関心が非常に高まっていることがわかります。

予算内訳からみる人工知能事業への取り組み

予算内訳から日本の取り組みを整理すると、以下の2つに大別することができます。

前者は研究開発への注力、後者は事業やサービスへの応用を表します。 後者に関して、総務省の所管予算概算要求には以下のような記述があります。

膨大なIoT機器により実空間の情報を収集し、そのビッグデータを人工知能(AI)で解析することで様々な産業分野の価値創出を行う基盤となる「IoT/BD/AI 情報通信プラットフォーム」の構築に向けて、音声処理、自然言語処理等のAI基盤技術を多様な分野に展開し、人間と自在な対話が可能な次代サービス等を実現するための社会実装や国際標準化を推進

IoT・人工知能・ビッグデータが連携し、産業分野の情報通信プラットフォームは実現されるという趣旨の方針がみられます。 このような「産業分野」のIoT/BD/AI 情報通信プラットフォームIndustrial Internet of Thingsと呼ばれ、既に世界的には広く取り組まれています。

Industrial Internet of Things

工場

IoT(モノのインターネット)の中でも、産業分野への活用に特化したものをIndustrial Internet of Things(以下IIoT)と呼びます。 スマートアグリ(農業)やスマートファクトリー(製造業)など、特定の産業では、一部ですでにIIoTの積極的な導入が推し進められています。

しかし、それらもまだまだ初期段階です。 本格的なIIoTの実現は、産業発展を爆発的に推進すると考えられています。

IIoTを実現するための3要素

アイルランドに本社を置く総合コンサルティング会社であるアクセンチュアの調査によると、IIoTの本格的な実現のためには以下の3つの技術を有効活用する必要があります。

センサ駆動型コンピューティング

温度、圧力、動き、相互関係、使用量など、様々な情報の把握を可能にするセンサは物理世界とデジタル世界を接続する役割を担います。 センサによって、後述するインダストリアル・アナリティクスで知見を導くための認知データを得ることができます。 急速に小型化・低価格化・高度化が進んでいます。 IIoTに関してはデータの新たな収集方法や低電力化、生信号の分析アルゴリズムなどが求められています。

インダストリアル・アナリティクス

獲得した大量のアナログデータから優れた洞察を獲得します。 人、もしくは他のデバイスが分析結果を得ることで、意思決定やイベントの予測などに役立てます。 この洞察の獲得の核となるのが人口知能技術です。 詳しくは後述します。

インテリジェント・マシン・アプリケーション

IIoTを構成するデバイスは機械的な機能を実行するだけでなく、内蔵されるアプリケーションによって自らを賢く制御します。 例えば内蔵されるソフトウェアは、定期的にアップデートをおこなうことで機能を強化し、顧客にメリットをもたらします。 さらに異なる機器や人間、外部サービスなどと連携し、パフォーマンスを向上する機構を自らが備えます。

IIoTにおける人工知能の役割

前述の3つの要素技術の中で、人工知能が最も力を発揮するのは「インダストリアルアナリティクス」の領域です。 また、「インテリジェント・マシン・アプリケーション」とも深い関連があります。 具体的には、以下のような価値が要求されます

インダストリアル・アナリティクスのためのAI

広く一般的な人工知能と同様に、ビッグデータからの洞察の獲得に人工知能は絶大な効果を発揮するでしょう。 特にセンサデータは人が生み出すデータと比較すると量が膨大で、質がまちまちであり、種類が多いという特徴があります。 それらを適切に処理・分析し、優れた洞察を導くことのできる人工知能が期待されます。

加えて、データ処理のリアルタイム性が重要になります。

人工知能がその洞察を導くのに大変な時間を要するのでは、産業への応用は非常に難しいです。 データの収集と洞察の獲得が目的ではなく、得た洞察を用いて迅速な対応をおこなうことが求められるためです。

仮に長い時間をかけてたくさんのセンサデータから人工知能が解析をおこない、あるエラーの原因を特定することができたとしましょう。しかしその分析が済んだタイミングでは、状況はすでに変化し、時間やお金などたくさんのものが失われてしまっているかもしれません。

以上より、IIoTにおける人工知能活用では膨大なセンサデータのリアルタイム処理が重要になります。

インテリジェント・マシン・アプリケーションのためのAI

IIoTでは独立した機器が自らタスク管理やソフトウェアのアップデートをおこなうことで、パフォーマンスの向上を目指します。 加えて以下のような人工知能による学習が必要となるタスクに関しても、自らがおこなうことが期待されます。

究極的には、各々のデバイスが適切な人工知能ソフトウェアを有することが求められます。

機械が自身で障害を察知し、保守をスケジューリングし、摩耗した部品に負荷がかからないよう動的に制御アルゴリズムを調節する。そして、その状態を他の機器や人に伝える。最も適したデバイス上でタスクを処理し、デバイス同士が賢く繋がることで通信回数と送る必要のあるデータ量が減るため、結果的にリアルタイム性の実現に繋がります。

以上より、IIoTにおける人工知能活用では機器ごとに実装され、分散処理的に協調する機能が重要になります。

IIoTに取り組む海外企業

世界に目を向けると、すでに幾つもの企業がIIoTの実現を推し進めています。 その中でも特に有名な企業について、幾つか紹介します。

LogMeIn Inc(Xively)

Xively

IoTを実現するためのクラウドサービス

LogMeIn社の提供するXively(ザイブリー)はIoTを実現するためのクラウドサービスです。 センサデータなどの蓄積、利用を簡単にするBackend as a Service(BaaS)です。

センサーから取得した情報を受け取りAPI経由でクラウドに送信すると、データの管理や分析、グラフ化などのを自動でおこなってくれます。

APIは様々なプラットフォームに対応していて、例えばセンサと3Gモジュールが組み込まれたArduinoから、Xivelyにセンサデータを送信しグラフにして時系列の変化を表示させたり、過去に蓄積したデータをダウンロードして利用することが簡単にできるようになります。

PLANET OS

PLANET OS

地球のあらゆる情報が集約されるプラットフォーム

PLANET OSは、海中や地中などに設置した膨大な数のセンサーからデータを収集し、そのビッグデータを用いて分析をおこなうためのクラウドサービスです。

同社はもともと石油会社やガス会社に向けて、海洋関連のデータ分析を手掛けていました。 時代の変化に伴い海洋以外のデータも扱うようになる中で、地球のあらゆるデータの取得を目指すように進化を遂げています。

地球規模で散らばるセンサー群を扱い、そこから洞察を得る、まさに社名通りの「地球のプラットフォーム」たり得るサービスを提供しています。 これは産業だけにとどまらず、様々な洞察を得ることができる可能性を秘めています。

Uptake Technologies

Uptake Technologies

巨大企業に眠る莫大なデータ資産を価値に変換

建築・航空・鉄道・採鉱などの巨大産業では、すでに多くのセンサデータが存在しています。 しかし、それらを活用して価値を生み出すことができている企業はほとんどありません。 それらの収集・分析を支援するのが、Uptake Technologiesです。

彼らはセンサデータを適切に収集・分析し、そこから得ることのできる洞察によって、企業や現場で働く従業員が適切に行動できるようなシステムを提供しています。 同社はすでに建築用機器の世界的メーカーであるCaterpillar社など、各業界のリーディングカンパニーとのパートナーシップ契約を結び、成長を続けています。

CEOがグルーポンの創業者の一人であるBrad Keywellということもあり、現在最も注目を集めるスタートアップの一つです。 2015年にForbesが発表したHottest Startupでは1位に輝いています。 現時点では具体的なテクノロジーやパートナーシップについてはクローズドな部分が多い、謎に包まれた企業です。

IIoTの実現を目指すPreferred Networks

国内でも、IIoTに取り組む企業が出はじめています。 その中でも頭角を現しているのが、2014年に設立されたPreferred Networks社です。

PFN

Preferred Networksとは

Preferred Networks(以下PFN)は、IoTと人工知能の流れを融合し、新たなイノベーションの実現を目指す企業です。

人工知能に関心の強い人は、ディープラーニングライブラリ「Chainner」を提供する企業だと認識しているかもしれません。 しかし、同社Webサイトでは以下のように述べられています。

PFNは、機械学習・深層学習を研究開発しているだけの会社ではありません。分散コンピューティング、優れたデータ処理アーキテクチャ、ハードリアルタイムを実現するネットワーキング技術、自動車・ロボットをはじめとするデバイスへの深い理解など、様々な専門性を組み合わせることによって技術開発を行っています。

ChainerはGoogleのTensorFlowなどと並んで広く一般的に利用されているライブラリです。 同社は自社で開発したこのライブラリを活用し、Deep Intelligence in MotionというIoT向けのソリューションを提供しています。

特に自動車、バイオ、製造業の3つの産業に注力し、トヨタ自動車、京都大学、ファナックなどの大企業と共同で研究開発を進めています。

PFNの提唱するエッジヘビーコンピューティング

PFNでは、IoT時代の人工知能のアプローチとして、エッジヘビーコンピューティングという手法を提唱しています。 これは前述のインテリジェント・マシン・アプリケーションのためのAI活用に近い考え方を持ちます。

IoTネットワークはたくさんのデバイスで構成されます。構成するのはネットワークデバイスやエッジデバイス(センサデバイスなど、末端に位置するデバイス)などです。これらは通常ならば機械的機能のみ(センサデバイスならば値の取得と送信のみ)を提供します。

エッジヘビーコンピューティングでは、そのような中間や末端に位置するデバイスに「高度な」機械学習のアルゴリズムを搭載します。 そして、それぞれが分散協調的に、並行して機械学習処理をおこないます。 こうすることのメリットは、ネットワークの制限を受けないことです。 ローカルの環境で、通信を意識せずに大量のデータを処理することができます。

これは並列分散処理であるため、同時に遅延を少なくすることができます。 つまり、IIoTで求められるリアルタイム処理が容易になるというメリットがあります。

ここで重要な点は、一つ一つのデバイスを賢くするだけでは不十分だということです。 同時並行で機械学習をおこなった出力が集約的に機械学習をおこなった結果よりも劣るものでは意味がないのです。

重要なのは高度な人工知能を搭載したたくさんのデバイスを賢くつなげることです。 これを実現して初めて、複雑なタスクを高いパフォーマンスでこなすことができます。

IIoTを実現するPFNのアプローチ

PFNのアプローチが非常にユニークなのは、人工知能とIoTが両輪として成立するソリューションを提供している点です。

「インダストリアル・アナリティクス」の技術では、人工知能による分析の精度や速度が差別化の要因になります。 これはIoTに特化した企業というよりも、優れた人工知能リソースを持つ企業が強い傾向にあります。

一方「インテリジェント・マシン・アプリケーション」の領域では、Xivelyのようにデバイスを簡単に繋げたり、単体で人工知能を搭載したハードウェア製品を開発する企業が存在します。 しかし、PFNのように賢くつなげるを実現する人工知能技術を推し進める企業はほとんど存在していません。

現在PFNの考えている「分散的な機械学習を実現する」エッジヘビーコンピューティングのようなアプローチが今後スタンダードになっていくとすれば、PFNは間違いなくそのトップを走る企業となるでしょう。

まとめ

人工知能の社会実装を実現するIIoTと、その実現を目指す企業について紹介しました。

産業領域で大きなインパクトを生むには、大量のデータを所持していること、データを利用するための技術を有することが不可欠です。

技術に特化した企業が産業領域で大きなインパクトを生むには、大企業との連携が重要になります。 大量の専門知識と蓄積されたデータを用いて、既存の状態から大きな成果を生み出すことが求められるからです。

故障の未然防止や作業フローの最適化など、IIoTが実用化されることで受ける恩恵は絶大です。 実現可能なソリューションが提供できるようになった領域から、間違いなく導入が進んでいくでしょう。

その実現を推し進める企業の動向に、今後も目が離せません。