Disney Researchの新しい研究成果は、スポーツのデータ分析に関するものです。

これまでも、サッカーやバスケのデータ分析は主にアメリカを中心に取り組まれて来ました。今回の発表は、従来の統計学を使った手法ではなくディープラーニングを応用したものです。

ディープラーニングは、近年、囲碁に勝利したAlphaGoや画像認識、音声認識の分野で従来手法と比較して圧倒的な成果を挙げ始めていることで注目されているテクノロジーです。

ゴーストプレイヤーを使ったデータ分析とは

スポーツでのデータ分析では、バスケならEPV、サッカーであればEGVといった指標を使ってアナリストが分析することがあります。

この指標は、過去の膨大なプレイデータを参考にして確率として何らかのスコアを算出することができます。 つまり、「選手やチームのプレイは、リーグ全体の平均と比べてどのくらいのパフォーマンスが期待できますか?」という疑問に答えるものです。

以下の画像は、バスケットボールの試合で指標を使った分析の例で、試合中のある状況で、パスの成功率や得点の確率をスコアとしてリアルタイムで算出することでデータ分析に役立てている例です。

POINTWISE: Predicting Points and Valuing Decisions in Real Time with NBA Optical Tracking Data

赤くて太い矢印に従って4番のDANNY GREENさんにパスすると、パスの成功率は高く、得点の期待値も高まることが分かります。 このような分析を駆使することで、選手の意思決定の能力を可視化して評価することができるようになります。

さらに意思決定のタイムステップを進めて対象選手を増やすと、標準的なチーム・選手の軌道と対象選手や対象チームの軌道を見比べることができるようになります。 以下の画像は、選手の軌道を描いた「ゴースティング」の例です。

Data-Driven Ghosting using Deep Imitation Learning

赤のフラムFCが、青のスウォンジーに対してゴールチャンスのシチュエーションですが、ゴースティング技術を使うことで、 リーグの平均的な動きと比較して、特定のチームがどのような動き方をするのか特徴を掴むことが出来るようになります。

以下の図が、リーグ全体の平均の軌道を描いたゴースティングの例です。

Data-Driven Ghosting using Deep Imitation Learning

この図では、リーグ平均の動作が分かります。 この時、スウォンジーの動作の場合は、69.1%の確率でゴールを許すことになっていますが、 ゴースティングの場合はもう少し悪く、71.8%の確率でゴールを許すことが分かります。

ゴースティングの可視化を見ることで、スウォンジーはこの状況下では、守備力が平均よりも高いことが分かります。

しかし、スポーツのデータアナリストや監督は、もっと具体的なことが知りたいはずです。 例えば、マンチェスター・シティは同様の状況下で、どのようなディフェンスをするでしょうか?

Disney Researchの研究成果は、ディープラーニングを応用することで、特定のチームや選手のゴースティングに成功しています。 以下の図は特定のチームのゴースティングの可視化です。

Data-Driven Ghosting using Deep Imitation Learning

マンチェスター・シティのディフェンスの軌跡を描いた例でゴール率は41.7%となっています。 スウォンジーよりもさらに良いディフェンスをすることを予想することができるようになるのです。

この手法を応用すれば、サッカーだけでなく、バスケ・ハンドボール・ラクロスなど様々なスポーツに応用することができます。 Disney Researchの発表した動画はこちらです。

動画で見ると、より分かりやすくシミュレーション出来ていることが分かりますね。

ディープラーニングによるスポーツ分析の仕組み

特定の選手やチームのディフェンスをシミュレーションするには、どのような手法を使うことで実現できるのでしょうか? Disney Researchが開発した手法は、Deep Imitation Learningと呼ばれる手法を使ったものです。

Deep Imitation Learning

Imitation Learningは、制御やロボティクスなどの業界で応用されようとしている技術です。 すでに学習したいものを獲得している人や機械のセンサデータや挙動を見ることで、自動的にルールや挙動を学習していきます。

これまでだったら、特定のチームを分析して、どのような動きをするのかを順々に予想していたはずです。 こういった「癖」をデータから掴むことは、自動的に特徴を抽出するディープラーニングという技術が得意な領域だということが分かってきました。

テクノロジーを活用することで、人間の膨大な時間を削減することが可能になるのです。

転移学習

特定のチームの動作を学ぶために、転移学習という技術を応用しているところが面白い点です。

リーグの平均と違って、特定のチームのデータは少ないので、十分な特徴を掴むことが難しい場合が多いです。

転移学習は、画風変換などのアルゴリズムを開発するために使われる技術で、少ないデータでゼロから学習させるのではなく、 データが似ているものから学習したパラメータを活用して、新しいデータで学習することでより良い特徴を掴むことができます。

以下の図は、画風変換に応用した例で、ゴッホなどの特定の「画風」を学ぶことに成功しています。

A Learned Representation For Artistic Style

普通の写真を、驚くほど作者の画風に自然に近づけることに成功していることが分かると思います。

まとめ

この記事では、スポーツ分析にもAIの活用が進んでいることを紹介しました。

今後、ディープラーニングの応用先もますます発展していきそうですが、一方でテクノロジー自体も複雑化してきていることは注意しておいた方が良いでしょう。

画風変換やロボティクスなどに応用されていた技術が、こうして全く別の分野でも使えることは、 汎用性が高いニューラルネットワークの実力を示す証拠になっていますね。

参考

[1] Data-Driven Ghosting using Deep Imitation Learning
[2] POINTWISE: Predicting Points and Valuing Decisions in Real Time with NBA Optical Tracking Data
[3] A Learned Representation For Artistic Style